どの情報が正しいのかを読み解くのは難しすぎる
"〇〇で、がんが消えた"というよくあるフレーズ。本当に騙されてはいけない。
誰だって、"治らない"と言われたら、本当に"治らない"のか、"治る"方法はないのかを模索したくなるに決まっている。こういう人の気持ちを逆手にとった悪徳商法だ。
その広告が本当に事実なら、どうして私たちがお勧めしないのだろうか。
去年のデータではあるが、日本人のメディアの信頼度が調査されている。医療に限った内容ではないが、参考にはなると思う。個人的には思ったより高いな、という感想。特にテレビ。
参照:http://www.chosakai.gr.jp/notification/
提供された情報が、確からしいかを見極めることが大切。
でも、ことさら医療については難しい。情報の手に入れ方が命を左右する可能性がある。今日はそんなお話。
納得できないことがあるなら、セカンドオピニオンを受けよう
たまに、病状の捉え方によっては、治すことを目指した治療選択肢がとれる場合がある。納得いかないのであれば、疑問があるのであれば、セカンドオピニオンを受診することをお勧めする。
間違っても、やるべきことは、インターネットを調べることではない。友人に意見を求めることでもない。体験談を調べることでもない(インターネットの性質上、辛かったことを中心に語られる:情報バイアス)。
医師によって意見が異なることは往々にしてある。それは、知識や経験の差である場合もあれば、治療に対するポリシーの違いである場合もある。専門家でも意見がわれる、正解がない局面があるのは事実なのだ。
セカンドオピニオンは患者の権利だ。納得してから治療を始めることが、何よりも大切。医療はあくまでも信頼関係で成り立っている。私たちも信頼してもらっていなければ、手術をすることも抗がん剤治療を行うことも危なくてできなるわけがない。
毒を以って毒を制するのが、薬というものなのだ。
例えば抗がん剤はその最たるところだ。私たちはそれが毒であることを知った上で、それでもなお、使うことでメリットのあることがある場合にだけお勧めしている。
医者は抗がん剤という毒を使ってけしからん、抗がん剤反対!という論調もよく目にする。それに同調する声もあがる。
あまりにバランスを欠いた短絡的な意見で、残念な気持ちになる。
わざわざ指摘していただかなくても、医療者はそんなことは知っているのだ。
その他にも「〇〇でがんが消えた」シリーズ、「切らずに治す*」シリーズ、「免疫力を高めて云々」シリーズのような一見魅力的な文面が様々なところでみられる。
(*注:切らずに治すは、その安全性については様々な方法で現在臨床試験中。安全性は確立されていないので、興味がある場合は必ず臨床試験に参加しましょう)
その結果、
「私、食事療法でがんばってみます」といって大変な状況になって帰ってくるパターン。
手術をして治すための治療を本人と医師の間でも納得の上で、予定していたのにも関わらず、遠い親戚の"おせっかい"で民間療法をまず試すことになってしまい、手遅れになって戻って来るパターン。
残念ながら、枚挙にいとまがない。
それに対して、
「それがその人の選んだ人生なんだから、好きなようにさせてあげればいいよ。」
「自己責任だよ」
という意見があるのも事実。
でも、本当にそれでいいのだろうか。
悪いのは正しい情報を選び取れないことではない
残念ながら医学には不確実性がある。
確かに、私たち医療者の言うように治療をしていれば100%病気が治るわけではないことは事実。私が日頃診療にあたっている乳がんも、"治す"という観点からは、どうしてもあげられない場面なんていうのはいくらでもある。
それでも、多くのデータや経験を基に、この時はこうしてあげる方がうまく行くだろう、いい時間を過ごせる時間が長いだろうという選択肢を提示するようにしている。
私たちも100%よい治療を提供できるわけではないことをわかっているからこそ、
色々なことを"試してみたい"という気持ちを蔑ろにできない実情もある。
現に、私もお勧めはしないけど、やりたいならどうぞ、と言ってしまうことはよくある(その代わり、やる時は必ず教えて欲しい、と伝えている)。
しかし、問題の根本は、この"試してみたい"と思わせるような過大広告に問題がある。そもそもありえもしない選択肢が転がっていることが問題なのだ。
そして、それらが科学的根拠に基づいた情報と同等に並んででてきてしまうのが、本当にテレビやインターネットの恐ろしいところ。
この中から、確からしいことを選び抜くのは本当に難しい。
我々医師でも、専門外のこととなると正しい判定が難しくなる。
"どれぐらいその意見が確からしいか" がもっと語られてもいいんじゃないか
病気に関する情報は、世の中にあふれかえっている。
テレビ、新聞、インターネットなど様々なメディアから情報は発信される。
その根拠の強さについて、同時に語られることはほとんどない。
語れないのは、根拠がないからなのだ。例えば、たった数例でうまくいった、というような情報は根拠がないこととほぼ同じ。それが、本当に医学の発展を願っての発信であれば、論文というしかるべき形で提供されなくてはならない。論文にならないのは、論文にできるだけの根拠がないからと言わざるおえない。
所詮、メディアは商業ベースの媒体。本当に"患者さん"のために提供されている情報であるかどうかは、難しいが見極めないといけない。
世の中には、本当に患者さんの助けになる有益なコンテンツを提供している団体やページも存在している。そういう素晴らしい活動をしている方々にもっとスポットがあたりやすい仕組みが欲しい。
その医療ページがどれぐらい信用できる情報か、という指標が導入できるといいと思う。