サプリメントなどの補完療法を受ける人はかえって再発率が高くなるという皮肉
補完療法を受ける人は、再発率が高い
補完療法の定義は様々だが、ここでは、ハーブ、ビタミン、ミネラルといったサプリメント、ホメオパシー、ヨガ、鍼灸などのことを指す。
実に、44-88%の人ががん治療中になんらかの補完療法を試すというデータも存在する。
今回、「従来の治療に加えて、補完療法を受ける人は、受けない人よりも予後が悪い」という補完療法についてのJAMA oncologyから出た、印象的な論文を紹介したいと思う。
従来の治療に加えて、補完療法を受ける人 vs 受けない人
この研究は、アメリカのNational Cancer Databaseから、乳がん、肺がん、前立腺がん、大腸がんの従来からある治療(手術、放射線治療、抗癌剤、ホルモン療法など)を受けた人を対象に行われた。
この中で、従来の治療に加えて補完療法を受けた人と受けなかった人の5年生存率を比較した。解析のときには、様々な背景(癌腫、stage、年齢など)を調整して比較している。
結果は、
補完療法を受けた人は、受けなかった人よりも5年生存率が悪かった。
補完療法は、標準治療拒否を映す鏡?
直接的に、補完療法として行った行為が、再発率を高めたわけではないだろう(その可能性もあるかもしれないが)。考察の中でも触れられていたが、このような補完療法を行っていた人は、標準治療を拒否しがちだったことが再発率悪化に影響していると考えられる。
要するに、補完療法に手を出してしまう人は、性格的に従来からある治療を拒否しがちということなのかもしれない。
日々診療にあたっている人間からすると、なんら違和感のない話だ。
この試験では、手術・放射線治療・抗癌剤・ホルモン療法などのいずれかを受けていれば、OKとされていたため、どれほどの人が状況に応じたこれらの治療の適切な組合せである"標準治療"を受けていたかはわからない。
個人的には、標準治療さえ受けてもらえれば、サプリメントなどは治療の邪魔にならなければ、よいだろうと考えていた。実際、薬を処方しても内服してくれているかの真実は確かめられない。実は我々も、あまり楽観的に考えていてもいけないのかもしれない。
皮肉にも、高収入・高学歴の人ほど補完療法を利用していて、再発率が高い
さらにこの論文中には、なんとも皮肉な現実が突きつけられていた。
高収入や高学歴の人の多くが、補完療法を利用し、結果高い再発率となっていたのだ。
おそらく、"癌にいい"というなんちゃって商品にたどり着けてしまう情報収集力と金銭的ゆとりがあるせいだろう。
自分のことは自分でという思いからなのか、"自分が自分の主治医"になってしまっている人も中には出会うことだってある。
自己判断でホルモン療法の薬はやめて、こちらのサプリメントを飲んでました、のような感じだ。
要するにこのような方々の再発率が高いということを示しているデータだと思う。
これは、別に医療者のいうことに従順に従いなさいという意味では決してない。
むしろできれば、ご自身なりに調べていただきたい。ただし、ブログやクチコミではなく、患者さん向けガイドラインや公的医療機関から情報を得てほしい。
実は、我々も病状を伝えたり、治療方針を相談したりするときは、患者さんやその家族がどれだけ正確にその病気を理解しているか、知っているかによって、伝えられる内容が大きく変わってくる。
情報を隠しているのではなく、一度に多くのことを伝えても最終的に何も残らなくなってしまうため、その受け手に合わせた内容で話をせざるおえない。
実際、患者さん自身が何も知らなかったり、あまりに偏った知識ばかりでは、最終的に双方が納得いく治療選択は難しくなることも多い。
病気と向き合うのは我々医療者だけでなく、まぎれもなく本人・家族であることは忘れないでほしい。
補完療法とどう向き合うか
ヨガや鍼灸などの一部の補完療法は、QOLを改善するというデータも存在している。真正面から否定するつもりはないが、多くの補完療法は"癌にいい"という触れ込みで行なわれている。これは残念ながらほぼ嘘だ。もちろん詐欺まがいのものも横行している。
がんを少しでも治す確立を上げたいのであれば、標準治療の代わりに、補完療法を選択することは、決してはしていけない。
様々なリスクを承知の上で、補完療法をやるとしても、標準治療はしっかりと行うことを約束した上で選択していただきたい。
参考文献:JAMA Oncol. 2018 Jul 19. doi: 10.1001/jamaoncol.2018.2487.
https://jamanetwork.com/journals/jamaoncology/fullarticle/2687972