更年期障害に対する女性ホルモン補充療法で乳がんのリスクは心配するべきか

女性ホルモン補充療法って、何を補充している?

女性ホルモン補充療法(HRT)は、いわゆる更年期障害の症状を和らげる目的で一般的に行なわれている。

この更年期障害の原因は、女性ホルモンであるエストロゲンが閉経によって足りなくなることで起こってくる。

だから、このエストロゲンを補充して更年期症状を和らげようというのが、ホルモン補充療法である。

しかし、このエストロゲンは子宮内膜を分厚くさせて子宮内膜がんのリスクをあげてしまうことが知られていて、それを防ぐ目的で子宮がある人(何らかの理由で摘出をしていない人)に対しては、黄体ホルモン(プロゲステロン)を一緒に加えることで、子宮内膜がんリスク上昇を防いでいる。

 

一方で、このホルモン補充療法には、乳がんの発症リスクをあげるということが報告されている。

どうやら、子宮内膜がん予防で加えているプロゲステロン乳がん発症リスク上昇作用があるようだ。不思議なことに、エストロゲンにはその作用はなく、エストロゲンだけを補充しても乳がんのリスクは上昇しない。

 

乳がんのリスク上昇ってどれぐらい?

では、どれぐらいの乳がんのリスク上昇があるのだろうか。

報告は様々だが、ホルモン補充療法をしている期間は、おおむね1.2-1.5倍。実はホルモン補充療法を中止すると、3-5年でこのリスク上昇効果はリセットされると考えられている。

 

1.2-1.5倍というと多いような気もするかもしれないが、実際の人数で考えてみると

1000人の人が1年間薬を飲み続けて、これが関連したと思われる乳がん発症者は1人いるかいないか 程度なのだ。

 

 むしろ座ってばかりの生活や肥満、アルコール摂取の方が影響は大きい

このようなことが、国際的な学会のコンセンサスとして報告されている(グローバルコンセンサス2016)。

 

これを聞いて、リスクは高いと感じるか低いと感じるかは人それぞれかもしれないが、私はさほど心配するほどの数字ではないと思う。

ホルモン補充療法をするということは、なにかしらの症状でお困りな状況かと思う。

どんな薬も毒を持って毒を制すもの。困った症状を解決するためには、ある程度の有害事象は致し方ないのかもしれない。

もし、日頃家でゴロゴロしていることが多い人が、ホルモン補充療法をすることで乳がんの心配をされているのであれば、薬は飲みながらでも、運動習慣を身につける方がよっぽど建設的だと個人的には思う。

 

ただ、ホルモン補充療法の期間が長くなれば、その分だけ乳がんへの影響も大きくなってくる。おおよそ長くて5年間ぐらいが目安だろう。

もちろん、乳がん検診やセルフチェックはお願いしたい。これは、ホルモン補充療法をする/しないに関わらない話ではあるけれど。

 

ちなみに、上記で述べた乳がんリスク上昇の話は、通常日本でも使われている合成プロゲステロンによるもの。天然型のプロゲステロンはこのリスク上昇はないと言われているが、残念ながら天然型プロゲステロンは日本未発売。

 

"リスク上昇"って言葉に振り回されないように

よく"〇〇するとがんになるリスクがあがる"などという言葉を目にするが、

このリスクはどれぐらいあるのか、を知っておかないと、いらない心配をすることになるかもしれない。

様々な事柄の具体的リスクを把握することは難しいだろう。

それでも、もし自分が具体的に心配するものがあるとしたら、それは本当に心配した方が良いかどうかを判断するためにも、正確なリスクを少し調べてみるといいと思う。

たまにみかけるマンモグラフィやCTなどの放射線に過剰に反応する方も、正しいリスクが把握できていないからかもしれない。それを知った上でも、心配しているのかもしれないが・・・。

どんな検査も薬も、リスクとベネフィットがある。我々はそれを知った上で、その人にとって必要と考えるから提案している。

"リスク上昇"という言葉だけに振り回されないように注意していただきたい。