あなたと私と乳がん

 

あなたと私たちは同じ方向を向いているか

はじめまして、私、とある"がん拠点病院"に勤務する乳腺専門医です。

日々多くの乳がん患者さんとの診療を通じて、様々な経験をさせていただいております。辛いことも、嬉しいことも。

そんな中で、どうしたら日本の乳がん診療はよくなっていくか、変えることができるのかを考えさせられます。

 

今の乳がん診療に足りないもの・・・

 

"患者さんと医療者がお互いを理解しあう機会"

 

もちろん私たちは患者さんのことを知らなくてはいけません。でも、私たちの前で見せる顔は診察の時の"患者"としての顔で、日常生活の中でどんなことを考えて、どんなことを求めているのかということは意外と知りえないこともあったりします。

一方で、患者さん方も私たちがどういう思考回路でどのように治療方針を考えているということは意外と知らないのではないかと思います。自分の身を乳がんのリスクから守るときにも、一緒に治療方針を考えるときにも、実は乳がんについて知っておいてほしいこともあります。

乳がん診療において、目の前の患者さんを救うための手術や薬での治療は第一に大切です。次の新たな治療を作るための基礎研究や臨床研究も非常に重要です。私自身、いずれにも携わる機会がありますが、それだけでは日本の乳がん診療は変えることができないことがあるのです。

そんな診療にあたっているだけでは解決できないことを発信するため、前線で乳がんと向き合う一人の医師として、このブログを立ち上げるに至りました。

 

自分を救う情報をみつけることは簡単でない

医学にも個人のリテラシーが非常に試される時代です。なにが確からしいのか、なにが古いのか、なにが怪しいのかを膨大な情報の中から選び出さなくてはなりません。

つい人は、自分に"都合のいい情報"を中心に信じてしまう生き物です。それが良い方向につながることも、悲しい結果につながることもあるのが現実です。

実は、それは患者さんだけでなく、私たち医療者にも同じです。私たちは"論文"として世に出回った研究結果から新たな知見をアップデートしていきます。しかし、論文になった研究結果が事実と一致しないこともよくあります。私たちですら、膨大な研究データから確からしいものを適切に選び取らないといけません。

医学は科学である以上、現代の医学で解決ができること、できないことが存在しています。どこまでがわかっていることで、どこからはわかっていないこと(解決できていないこと)なのかを知ることは、"様々なことを知ろうとすれば知ることができる"時代だからこそ非常に大切なのです。

 

"Shared decision making" 

Shared decision makingという概念があります。医師と患者さんが、"エビデンス(科学的根拠)"を共有して、一緒に治療方針を決定することです。

 

昔からある治療方針決定

医師 → 患者 👉 治療方針決定

 

Shared decision making

医師 ⇄ 患者 👉 治療方針決定

 

このプロセスが非常に重要です。

「医師→患者」においては、現在の状況(病状・科学的根拠・患者背景など)から方針を提案することになります。

では、「患者→医師」は何を伝えたらいいのでしょうか。もちろん、あなたの望むことを伝えればいいのです。そんなときに、お互いのことがもう少しずつわかっていると、うまくいくのかもしれません。

医学の発展は多くの人を救ってきたのも紛れもない事実、そして、不確かな部分があることも事実。医療者の"言い分"はこれを基に作られています。残念ながら、医学は万能ではありません。全員にとってベストな治療というものは、存在しないのです。

だからこそ、今ある情報から"考えうる一番良い方法"を一緒に考えていきたいのです。

みなさんにも知ってほしいのです、できるだけ正しく乳がんのことを。

私たちも知りたいのです、できるだけ正確にみなさんのことを。

 

このブログを通して、患者さんだけでなく、乳がんのことを知りたい方、乳がん診療に携わる様々な職種の方に向けて発信できたらと思います。

私たち医師も日々勉強です。できるだけ科学的根拠に基づいた中立な立場から、最新の知見をシェアして、これからの日本の乳がん診療をみなさんと一緒に考えていけたらと思います。